『幼いころ、親の都合で住み慣れた街から遠く離れた北の国へ移り住んだ主人公。しかし数年後、彼は進学に際して生まれ故郷にある学園を選んだ。ただ、なんとなく。その理由を聞かれたとき、彼はそう答えた。満開の染井吉野が起伏に富んだ街並をいろどる街、桜坂。幼いころの記憶はほとんど残っておらず、あらゆるものが真新しい景観。その中でただひとつ、懐かしさを覚える場所があった。二本の桜が寄りそうように並んだ小高い丘。しかし、そのひどく漠然とした懐かしさの中に混じる不安、焦燥、畏怖……。彼はその場になにか因縁めいたものを感じな ...